ヘヴィー級タイトルエッチ
「80キロあるねん」
場所はラブホテル、あられもない姿の女の子が絞り出すような声でそう言った。
数字の示すものは眼前の彼女の体重。
80…平生のトレーニングで使用するウェイトとほぼ同じ重み。
しかしそこに一切の馴染みは感じない。
バーベルはスリムだが、彼女は極めて太ましかったからだ。
デカいとは思っていたが、改めて体重を聞いて正直たじろいだ。しかし、ここまで来て行かないわけにはいかない。
「ツボやわ」
自分との階級差は2つ。格闘技における普通の興行なら試合自体が組まれない対戦カードだ。
しかし、今宵のリングはベッドの上。ここには自分を守るルールも、試合を止めるレフリーも存在しなかった。
腹を決めて彼女に接近する。
古びれたモーテルの一室で、初即をかけた体重無差別の残虐ファイトが始まろうとしていた。
この日は、数少ないネトナンでのアポ日だった。
ラブホ街を背後に控えるT公園のレストラン前に現れた彼女は、滋賀県からお越しの23歳。名前を琵琶子とする。
琵琶子はデカかった。背も高いが恰幅の良さが尋常じゃない。
プロフ画と実物の乖離が凄まじかったし、萎えなかったと言えば嘘になるが、初即を成し遂げるまでは選り好みをしないと決めている。
自分も身バレ防止で顔があまり見えない写真を使っていたのでおあいこと考えるようにした。
軽く挨拶を済ませて店へ向かう。
店内での琵琶子の口は重かった。
何か質問をしても最低限の回答を返すのみで、会話が膨らまない。
こちらからの質問→むこうの回答。こちらからの質問→むこうの回答…、お食事デートは採用面接の様相を呈してしまっていた。
「俺ばっか質問してるやん (笑) 面接とちゃうねんで!(笑)」
ツッコミ調でそう感じている旨を伝えると、初めて彼女から笑みがこぼれた。
そこから少し硬さがとれ、徐々にだが自己開示をしてくれるようになる。
聞くと、今まで男と付き合った経験が無いのだという。
それを意外に感じていること、今時付き合ったことが無いのは普通であること、自分を疑似彼氏としてデートの練習をしても良いということ等を伝えた。
とにかく彼女を肯定しつつ、諸先輩方から教わったセオリーに則り、アプリ内でやりとりしていたお互いの共通点について話を掘り下げ、ラポールの形成に努める。
一時間もたつ頃にはかなり打ち解け、彼女の口から楽しいという言葉が漏れた。
初心者なりに頃合いかと感じた自分は、会計を済ませ店を出るよう促した。
そのまま、ムーディーに照らされた公園を二人で練り歩く。
横並びになると、びっくりするくらい彼女の汗の臭いが鼻をついたが、我慢した。
恋バナをしながら、ぽちゃ好きで体の大きな子が好きであることを伝える。
まんざらでもない様子だった。手を握ってみるが、拒否の意は示さない。
メン「周りから見たらこんなんもうカップルやで!」
言いながら、ホテル街の方へ歩を進める。
メン「前の彼女はどえらい遊び人やったから、次付き合う人は遊んだこと無いような真面目な子がええな。先のこともちゃんと考えたい」
び「わ、私も」
メン「長いこと付き合おうと思ったら、体の相性は滅茶苦茶大事やねん。それを確認しとかんと後々大変になるでな」
ホテル前に着いていた。
メン「今日、楽しかったし琵琶子ちゃんのことええなと思ってる。先を考えた付き合いがしたいから、俺は相性を確認しときたい。」
琵琶子の息が荒くなり、つないだ手にぐっと力が入る。
び「でも…」
会ったばっかりやし。初めてやし。終電も近いし。
オーソドックスなグダが次々と繰り出された。
大事なのは一緒に過ごした時間の長さではない。途中で怖くなったら絶対にやめる。終電までには帰す。
こちらも予め用意していた返し技を出していく。
グダ崩しの最中、この難局をしのぎ、初即を成し遂げたいという気持ちと、このまま断られて帰りたいという気持ちがせめぎ合っていた。
正直に言うと、過食範囲ではないのだ。
食事すら苦に感じる相手であったのだ。
今近距離で向かい合って話しているこの瞬間にも、彼女の体臭で鼻が曲がってしまいそうだったのだ。
しかしこれはナンパという修業の場。撤退という選択肢は無かった。
メン「じゃあ行くだけ行って、空いとったら入ろう!」
論点をすり替え、勢いよく彼女の手を引く。
なんやかんやと言いつつも彼女はついて来た。
公園横の某城に入場する。週末だが、リサーチによると特別人気のホテルでもない。ここまでくれば後は流れで何とかなるだろう。
そう考えていた矢先。
「ごめん、今あかんねやわー」
カウンターに現れた小さなBBAが告げる。
まずい。入れなかった場合の運びを考えてなかった。
口実上、他のホテルを探す羽目になるとグダられるかもしれない。
BBA「隣入ってや。そっちやったら空いてるわ」
内心たじろいでいるとBBAが助け舟を出してきた。
聞くに、ここは一つのビルに二つのホテルが入っている店舗らしく、もう片方のホテルには空き室があるとのことだった。
メン「同じ建物やったらセーフやな!」
謎理論で押し通す。少しグダがあったが、もうこっちのものだった。
いったんビルから出て、横にある入り口から再入場する。エレベーターで上階へ上がり、入室した。
メン「入ったからにはそういうことやで」
琵琶子を抱き寄せ、腰を触る。
「待って」
琵琶子が俺の手を制してきた。
「自分で脱ぐ」
大きな体を器用に動かし、身に着けているものを一枚ずつ脱いでいく。
「やっぱり恥ずかしい。体に自信ない///」
肌着姿になったところで彼女が恥ずかしそうに身をよじった。ただでさえ丸みを帯びたフォルムが限りなく球体に近づいていく。醜悪だった。
メン「俺、さっきも言うたけどぽちゃが好きで、体重あればあるほど興奮するねん。むしろええ感じやで!体重何キロなん?」
び「80キロあるねん」
80…平生のトレーニングで使用するウェイトとほぼ同じ重み。
しかしそこに一切の馴染みは感じない。
バーベルはスリムだが、彼女は極めて太ましかったからだ。
デカいとは思っていたが、改めて体重を聞いて正直たじろいだ。しかし、ここまで来て行かないわけにはいかない。
メン「ツボやわ」
腹を決めて彼女に接近する。
尚グダろうとする彼女をセイセイセイと制しながら、残りの衣類を脱がしてベッドに横並びに座らせた。
0距離で見ると改めてデカい。大柄な骨格から伸びる太い腕、荒れた肌、分厚い唇…それにしても口くっさ!
(南無三!!!)
心の中で叫ぶや否や肉厚な口元に唇を重ねる。
何とも言えない嫌な生臭さが自分の鼻腔を満たし、嗅覚を司る前頭葉はレフリーストップを待たずして白タオルを投げた。
即座に口元を下方にスライドさせ、体を愛撫する。
首、胸と巡行するが、まんべんなく臭い、生臭さで全身がコーティングされている。
安息の地を求めてもがきながら肌上を舐めずりまわると、鎖骨の当たりが比較的ましだったので前戯中はそこばかり舐めていた。オアシス。
体を起こし、手マンをしようと秘部に指を伸ばすと、琵琶子の琵琶湖はあまりの水量に決壊寸前になっていた。
かき回すと、臭いがせり上がってくる。
セックス中感じた中で過去一の悪臭、鈍器でぶん殴られたかのような衝撃が鼻腔をたたいた。
瞬時に自分の頭部をオアシスへと逃がし、手だけで奉仕する。
はよ挿れて終わりたい。
その一心で手マンと並行して自分の愚息をこするも、一向に勃起の兆しは見えなかった。
こすれどもこすれども、漂う臭いと眼前の映像が自分の硬化を阻止してくる。
「はやく…」
あまりの焦らしっぷりに彼女の方から挿入の催促がかかった。
もう引き返せない。
幾層にも折り重なった脂肪と、長年の自己嫌悪に埋没していた彼女のインナーのエロを自分が表出させてしまったのだ。
ナンパ師としても、男としてもここで致さずに帰るわけにはいかなかった。
額に汗しながら、手を動かす。
勃て!!!!!!!!!!
念じ、頭の中で贔屓にしている女優のご尊顔を妄想しながら今まで何千回とこすり倒してきた自分のスポットを刺激した。
数分間の摩擦を経て、モノがぎりぎり挿入可能な硬度に変化する。
すかさず枕元にあるゴムを取り、あてがった。
しかし、亀頭に沿わせて転がそうとするも、ゴムは自分の先端をひしゃげさせるだけで一向に伸びていかない。
よく見ると、裏表が逆になっていた。
このゴムはもう使えない。カウパーくんがゴムの表面についてしまっている。
「ごめん、ちょっと待ってな」
急いでカバンに手を伸ばし、予備のゴムを探す。決まりは悪いが仕方なかった。
再度ゴムを装着しようとするも、愚息の海綿体からは血液が引きあげてしまっていた。
先ほど硬度を獲得した際と同様にしてリトルメンタルを励ます。
また時間をかけて丁寧にお立ち上がり願うが、一度収縮してしまった彼は弱弱しく頭を垂れ、半勃起の域にすら達しなかった。
いよいよダメか。そう考えていた時。
「舐めよか?」
琵琶子が言った。
ええの?と聞くと、彼女が頷く。
正直少し抵抗があったが、もうこれしかないと思った。
彼女が自分のモノを手に取り、口に含んでくれる。
たどたどしく、けっして上手いとは言えない口淫だったが、精一杯自分を喜ばせようという気概の感じられる、真心のこもったフェラだった。
必死に口を動かす彼女の顔は険しい。やはりかなりの抵抗感があるのだろう。
これで勃たなきゃ男じゃないぜ。
心中、自らの分身に語りかける。
すると、それに呼応するようにしてリトルメンタルは徐々にだが力強く立ち上がり始めた。
既に2ダウンしている。これが本当に最後の立ち合いになるだろう。
彼女に礼を言って、ゴムを取り、裏表を確認してからしっかりと愚息に装着した。
あそこの具合を確認し、痛ければ伝えるようことわってから彼女の琵琶湖に飛び込む。
彼女の顔は痛みと不安でゆがんでいた。
ポジションは正常位。嗅ぐもの見るもの聞こえるもの、五感に届く全ての情報がクリアだ。
しかし、自分はこの体位でフィニッシュすることを決めた。
それが、未経験ながら精一杯のパフォーマンスを見せてくれた彼女の気持ちに報いることになると考えたからだ。
あそこが異様に狭くてバックで上手いことやれる自信が無かったことや、騎乗位で重たい思いをしたくなかったという理由もある。
しっかりと彼女の顔を見て、手を握り、励ました。
こうしてる間にも悪臭は自分の鼻腔を蝕み、眼前の醜くゆがんだ顔と荒れた肌、苦しそうな声が絶妙に気持ちを萎えさせる。
あらゆるものが自分の愚息を中折れへと導こうとしていた。
やっぱこれ、最後までいくのはきついかもしれん。
そう思うが、踏みとどまる。
踏みとどまれてしまう。
あの場で自分を支えたものが何だったのか未だによく分からない。
初即達成への執念。女の子への気遣い。男としての矜持。あるいは単なる性欲だったのかもしれない。
ただ確かなことは、今日自分をこの場に至らしめた全てのものに感謝の念を感じていたことだ。
不安を押し殺し、初対面の自分に操を捧げてくれた琵琶子。
自分をこの世界に引き入れてくれた友人。
自分のマインドを劇的に変えてくれた恋愛工学。
合流し、共に足を棒にした界隈の仲間達。
数々のテクニックを授けてくださった諸先輩方。
きつく当たっても無償の愛で自分を産み育ててくれた両親。
ありがとう、冷淡な態度は照れ隠しです。
メン「ぼちぼちイキそう…」
琵琶子が苦しそうな顔で頷いた。
ピストン運動は速度を上げ、精管が熱くなる。
自分は泣いていた。
心の中でだ。
今までの苦労が走馬灯のように脳内を駆け巡っていた。
街に降り立ち、声をかけようとするも金縛りの様に体が動かなかったスト初日。
相方だけがちやほやされ、空気のように扱われたバー。
罵詈雑言を浴びせられた深夜の梅田。
そして、今日。
「イく…!!」
湧き上がる射精感に身を任せ、自己を解放する。
冷淡な態度。盛り上がらん会話。度重なるグダ。迫る終電。追い返されたホテル。立たないちんこ。常備ゴムの破損。
乗り越えてたどり着いた、万感の初即だった。
二人で夜の街を歩く。
もう初っ端のような気まずさは微塵も無い。
自分は単車で帰る旨を伝えると、彼女はここまででいいよと言い、深く頭を下げて駅へと歩き出す。
その背を見送っていると、彼女はぴたっと立ち止まり、振り返って何か言いたげな顔をした。
「今日、遅れてたから走って来たんやけど、私、汗臭かったりせんかった…?」
不安そうな顔で彼女が聞いてくる。
言葉に詰まった。
正直に言った方が彼女のためになるのは明白だ。
しかし、感じたままの事実を告げれば23歳までjojoを貫いてきた生娘のハートを傷つけてしまうだろう。
俯いて一瞬逡巡した後、笑顔で顔を上げ、少し離れたところにいる彼女に聞こえるよう、大きな声で答えた。
「興奮したわ!(笑)」
恥ずかしそうな笑顔で手を振る彼女を見送り、帰路につく。
これから、今日のような苦行を幾度も経験することになるだろう。
改めてとんでもない世界に来てしまったなと辟易しながら、ナンパという山の頂の高さを痛感していた。
達成感、後悔、感謝、悲哀、歓喜…様々な感情がない交ぜになった万感の初即。
20代半ばにして、初めてのワンナイトラブだった。
―臭(終)-